
初めてのCD録音から早くも半年が経とうとしています。毎日こうも寒いと、息をするのも億劫になるくらいだった昨年の猛暑をまるで幻のように感じる事がありますが、今この文章を書きながら出来上がったCDを聴いていると、その暑さの中毎日楽譜と向き合い、色々と考え続けた夏の記憶が確かに甦ります。
元々は「一度自分自身の演奏を客観的に見つめ直したい」という強い思い・興味があり取り組ませていただいた今回の録音ですが、1枚のCDへの準備そして録音を通し、これほど沢山の事を学べるのか、という驚きが録音直後の正直な気持ちでした。若い時の演奏を残す事の是非はありますが、今回のセッションを通し、音楽の新しい可能性を見させていただいたのは間違いありません。今この時期にそのような素晴らしい機会をいただけたのは本当に幸運でしたし、貴重な経験となりました。心より感謝しています。
今もう一度録音を聴き直してみると、そこには確かに2010年9月の僕自身―それは8月でも10月でもなく9月の僕―が映っているように思います。CDというのはある種の完成品ですから、その時期に自分が考えていた事全てが注ぎ込まれているはずです。だからもし今録音し直したら、全く違う演奏になっているかもしれない。30年後に録音したら、その時はまた考えが戻っていて、ほとんど今回と似た演奏になるかもしれない。そのように、常に考えが移ろっていくからこそ、同じ作品を何度でも演奏したくなる訳で、特に今回録音させていただいたシューマンの≪幻想曲≫をはじめとする素晴らしい作品群は、そういった「試行錯誤」をずっと繰り返していきたい、と思えます。

若きシューマンが伝統と自我の間で揺れ動き、最後には彼なりの結論を出し新たな世界へ羽ばたいていく、様々な感情が目まぐるしく交差する大曲≪幻想曲≫。そこに引用された2つのベートーヴェン作品...CDのタイトルにもなっている≪遙かなる恋人に寄す≫は≪幻想曲≫の中で最後に種明かし的に引用され、1つのキーワードとなる作品かもしれません。遠く離れてしまった恋人に宛てた6編の詩に彼が付けた曲は、内向的で愛情に溢れた温かな音楽でした。もう1曲、今度はひっそりと引用される交響曲第7番を基にしたシューマン初期の変奏曲は、彼の想像力が迸る隠れた名曲です。今回はこのCDのために変奏曲の構成を組み直しました。
そしてシューマンの歌曲2曲では、彼のロマン的感覚がどこまでも自由に飛翔します。それらの歌曲を編曲したのは、他でもない≪幻想曲≫を献呈されたリスト。
偉大な作曲家達の、時を超えた対話をお楽しみいただけたら幸いです。
北村 朋幹














尊敬するベートーヴェンの胸像と


photo: Kazuhiko Ota



毎年桜の季節が来ると、留学していた時ジュリアード音楽院の玄関先の桜の木を眺めながら「日本の桜はどんなものか...」と思いをめぐらせていたのを思い出します。
>ベートーヴェンがもしギター曲を書いたなら...と思わせるような、フェルナンド・ソルの壮大な<グランド・ソナタ>、ヴァイオリンの鬼才であり、ギターの名手でもあったニコロ・パガニーニの<グランド・ソナタ>、ギター古典期を代表し、パガニーニと同じイタリア出身でウィーンで活躍したマウロ・ジュリアーニの<ロッシーニのカヴァティーナ「おお、空よ静かに」による変奏曲>、ソルの弟子でギターロマン派を代表するナポレオン・コストの知られざる佳作<アンダンテとポロネーズ>、そしてソルのライバルでもあり親友でもあったディオニシオ・アグアドの作品で、このアルバムのタイトルにもなった<カンタービレ>を収録しています。質・量ともに大変盛りだくさんの内容です。是非お聴きください。
僕は常々、クラシック音楽は決して堅苦しいものでも退屈なものでもないこと、音楽は楽しいものである、ということを感じていただけるように演奏を行っています。おもちゃで遊ぶように楽しくギターを弾いていた幼少の頃の気持ちを忘れず、その想いを一音一音に込めています。もし私のCDや演奏をお聴きいただき、ギターの魅力、すばらしさを感じていただけるのであれば、この上ない喜びです。そして皆様にとってギターがより身近なものになると嬉しいです。
ところで、今年から公共ホール音楽活性化事業登録アーティストに選ばれました。平成18年の秋より全国各地に出向き、地域の方々と一緒に企画をしていくアクティビティを行ったり、ホールでのコンサートを通じて、各地のみなさんと触れ合う機会をいただけることになりました。ぜひ僕や、一緒にお仕事をするアーティストの演奏を、気軽に、普段着で聴きにいらして下さい。
photo(C)Akira Kinoshita
photo(C)Akira Kinoshita